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研究概要

ARM(原子分解能分析顕微鏡)を用いた最新の研究動向



核融合材料研究

核融合を実現するための課題として、過酷な照射に耐える新しい炉壁材料の開発がある。重水素(D)と三重水素(T)の核反応を利用する核融合炉では、炉壁 を貫通し材料内部に損傷を与える 14MeVの高エネルギー中性子(n)と、主として炉壁の表面層に影響を及ぼす高熱流束、水素やヘリウムのプラズマ粒子束 により、様々な損傷が引き起こされます。
本研究室では、高温プラズマ力学研究センター等 と協力し、照射損傷や格子欠陥についての基礎研究から、実際のトカマク装置(九州大学応用力学研究所 QUEST並びに核融合科学研究所LHD等)における材料損傷の実体解明など、核融合材料に関する幅広い研究を 行なっています。
中性子との衝突により、発生した原子サイズの格子欠陥(原子空孔と格子間原子)が離散集散を繰り返し大きな欠陥集合体となって材料中に蓄積されることにより、体積膨張(ボイドスエリング) や機械的性質の劣化など材料特性を損なう大きな問題が発生します。核融合中性子照射による格子欠陥の発生とその集合蓄積の原子レベルでの機構を明らかにし、材料の特性劣化との関係を解明することが重要なテーマの一つです。
もう一つの重要な課題に、プラズマ粒子による材料表面層の損傷があります。プラズマ・壁相互作用(PWI)と呼ばれていますが、損傷により表面層から放出された壁材原子によるプラズマの汚染や、表面下に壁材へ 進入した燃料水素の吸蔵問題は、プラズマ理工学の観点からもきわめて重要な課題です。
我々の研究室では、これらを物性物理的な見地から捉え、耐照射性の高い炉壁材料の開発の基礎となる研究を進めています。 また、材料中での水素挙動やPWIによるプラズマ閉じこめ容器の損傷の問題にも取り組んでいます。


原子力関連材料研究

原子炉圧力容器は、炉心での核分裂によって発生する中性子やγ線の照射を受けることにより、高温高圧の1次冷却材のバウンダリーを形成する構造物です。この原子炉圧力容器鋼は中性子や γ線の影響により放射化するため、交換することは不可能です。
代表的な原子力圧力容器鋼として、加圧水型(PWR)があります。PWRの圧力容器は小型に設計されており、容器の内側の壁における中性子束も高く、 容器の肉厚も厚くなっています。圧力容器鋼は、体心立方構造(BCC)を有しており、高エネルギーの中性子照射により脆化(ぜいか)します。例えば、照射により材料の延性・脆性遷移温度(DBTT)の上昇と上部棚エネルギー の低下等が挙げられますが、DBTTの上昇は、材料中の照射欠陥の形成に伴う降伏応力の増加に起因するとされています。圧力容器鋼の照射脆化に関する長期間照射の実証的なデータ取得は重要な課題ですが、圧力容器鋼の 照射脆化を監視するために試験片を挿入したカプセル を圧力容器内に装荷し、決められた時期に取り出す監視試験が行われています。しかし、監視試験によるデータと予測式が異なる例も見られることから、脆化予測 式 の高精度化が重要な課題となってきています。また、近年では、材料中の微細なミクロ組織の変化を調べる手法として、三次元アトムプローブ(3DAP)等の新しい手法や、分子動力学法やモンテカルロ法等の シミュレーションも有効な手法です。
この様に、圧力容器鋼に関する研究は多く行われていますが、その実体は明らかではありません。マトリクス欠陥として考えられているのは、空孔や格子間原子の集合体(転位ループ)、あるいはこれらと 溶質原子の複合体などが有力ですが、微細で不安定な空孔あるいは格子間原子の集合体がカスケード損傷から直接作られる可能性も考えられている。鉄系実用鋼は強磁性のため、透過型電子顕微鏡観察には適さず、電子顕微鏡等で観察した例はほとんどありませんが、当研究室では研究の当初から高分解能の電子顕微鏡を用いた内部組織の観察とその解析からこの問題に取り組んでいます。