概要

力学シミュレーション研究センターは応用力学研究所に付属する機関として1997年4月に設立されました。本センターは九州大学筑紫キャンパスに位置しております。本センターは海洋、大気、advanced material、そしてcontrolled plasmaのような複雑な力学機構の解明に向けての技術の発展と適用を広域目的としています。 また、ミニ大洋としての日本海において表層海況の監視と予測のための研究とシステムの構築を特定目的としています。 本センターの目的は室内実験、野外計測、数値計算をもとにした総合研究として追求されます。

設立趣旨

力学シミュレーション研究センター長 増田 章(1997.4〜1999.3, 2001.4〜)

平成9年4月に応用力学研究所が全国共同利用研究所に改組されました.これに伴い,研究所を支える基盤センターとして,また旧津屋崎海洋災害実験所を継承し海洋大気力学研究を新たな規模で推進する研究センターとして,力学シミュレーション研究センターが発足しました.本センターの組織・施設及び事業研究計画をご紹介します.

研究組織

海洋や大気に代表されるような大規模で複雑な力学系では,様々な規模の様々な現象が絡み合って思いがけない結果を引き起こすことがあります.従って,その力学シミュレーション研究を効果的に進めるには,素過程の緻密な実験,実自然での野外計測,予測に向けた数値実験の三者を有機的に組み合わせて相乗効果を上げる必要があります.このため室内実験,野外計測,数値実験の3分野構成を採っています.また,外国人客員教授に加えて外国人教官2名を迎え,国際色豊かで国際共同研究に対応しやすい体制ができました.

本センターのもう一つの,そして最大の特色は,後に述べる海洋に重心を置く短期事業研究を実施するために,海洋力学研究者を揃えていることです.研究所の海洋大気力学部門,基礎力学部門と合わせると,海洋力学研究組織としては世界でも有数の組織といってよいでしょう.実際,本研究所の海洋力学研究者(センター以外も含む)の研究主題は海洋物理の殆どを網羅しています.極域と海氷こそありませんが,大域海洋大気相互作用(熱帯海洋)から局所海洋大気相互作用(風波・海面境界過程),沿岸・大陸棚の海洋環境,北東アジアの海洋環境(日本海,東シナ海,黒潮),中規模渦と海洋変動,拡散・混合,海洋大循環(表中深層循環)までを研究対象としているのです.

実験設備

  1. 台風災害実験用風洞装置(高速風洞)
  2. 大気海洋システム解析装置(温度成層可能な風洞)
  3. 深海機器力学研究設備(海洋工学実験水槽)
  4. 海洋環境シミュレーション実験装置(風洞水槽)
  5. 電界放射型走査電子顕微鏡
  6. 表面材料分析装置
  7. 津屋崎臨海基地(旧津屋崎海洋災害実験所,小型調査艇)
  8. 津屋崎沖海洋観測ステーション(沖合い定点)
  9. テレメータ計測システム(沖合い海象気象の自動計測伝送装置
  10. 汎用電算機システム
  11. 等々.

長期事業研究

本センターでは,応用力学研究所の基盤センターとして,大型実験・計測・計算施設(核融合関連を除く)を統合的に運用し全国共同利用に供します.これが長期事業の趣旨で本センターはその窓口としての機能を果たします.この事業では,萌芽領域から先端分野まで,海洋・大気から材料,乱流プラズマまで広く力学全般の共同研究の実施と研究集会の開催を支援します.特に,本センターの擁する実験計測施設を利用して成果の上がるような共同研究を支援したいと考えています.

短期事業研究

研究所の先端事業研究のひとつが海洋大気力学研究です.海洋大型事業は既に20年以上の歴史を有します.これまでの実績を継承し更に飛躍させるため,本センターを中心に,次のような短期事業研究「東アジアの海洋大気環境監視予測システム整備のための国際共同研究」を文部省に申請しています.その目的と意義は次のようにまとめられます.

勃興する東アジア諸国に囲繞された日本海では,放射性廃棄物汚染や重油流出事故が起こるなど深刻な海洋汚染が懸念され,早急に監視予測体制を樹立することが必要になっています.日本海に限らず,これからは予測につながる研究が重要なことは明らかですが,広い海の海況予測は容易なことではありません.

ところが,具合のよいことに,日本海では,流入口である対馬海峡の海況を監視し海面境界条件を押さえれば海況予測の大枠を用意でき,官庁が個別に持つ密な監視網が活用できます.日本海は高解像数値モデルが使える手頃な大きさながら大洋の性格を備えた「小大洋」であり,日本海で得られた成果は地中海やその他の大洋に直ちに適用できるのです.また,明瞭な海上風・吹送距離を持つ「野外実験室」として,海面境界過程(海上気象,波浪,混合層)の解明に最適で,表層汚染物質の動き,水産環境の変動予測の他,海岸工学,海洋工学に大きく貢献する学際的研究が可能です.成果を社会に還元でき,実現の見込みの高い表層海況(海上風,気温,波浪,潮汐,海流,水温・塩分)の監視と予測に必要な実証的基礎研究を戦略的に進め,そのための体制・システムを構築していく計画です.

このように理想的な条件を備え,世界の注目を浴びつつある日本海を舞台に,海況予測という海洋学の夢の実現に向け,学会・省庁・国境を越え世界を先導する研究を実施していく意義は極めて大きいものです.応用力学研究所の海洋研究実績,とくに日本海海域に関する実績,培ってきた国際研究者網,日本海の入口という地理上の位置,海洋大気力学研究者の層の厚さから,この事業研究の実施には内外から多くの期待が寄せられています.


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