Data-driven Materials Processing

材料情報学 草場研究室since 2023

九州大学 応用力学研究所

結晶が成長していく原子スケールの様子を、計算科学と情報科学で捉える。

研究アプローチ「3つの視点」の見取り図。上段に分子動力学(表面上で振動する吸着分子)、左下に吸着配置(表面に分布する吸着子)、右下に素反応速度(反応座標に沿ったエネルギー障壁)を配し、分子動力学から左右のパネルへ「空間スケールを拡げる」「時間スケールを拡げる」の矢印が伸びる

なぜ面白いのか

現代社会に不可欠な半導体は、原子がひとつひとつ規則的に整列していく「結晶成長」によってつくられます。しかし、工業的には、結晶は高温のガスや液相の中で育つため、その様子を原子スケールで直接観察することは困難です。つまり、そのような環境で「原子がどこに付き、どう動き、どう反応するのか」という成長素過程そのものは、まだ誰も見たことがないのです。

どうアプローチしているか

この「まだ誰も見たことがない」成長素過程を、私たちはコンピュータの中で捉えます。第一原理計算と機械学習原子間ポテンシャルを共通の土台に、3つの視点から迫ります。分子動力学——高温の表面における原子・分子の動きをシミュレーションし、静的なエネルギー論では捉えられない「実際にどう動くか」のリアリスティックな描像を獲得して、他の2つの視点におけるモデル化の前提とする。吸着配置——ベイズ最適化で配置の安定化機構を見つけ、イジング模型などでエネルギー分布を解析し、原料由来の原子・分子や、環境を形づくるその他の吸着子が「どのような空間配置をとりやすいか」を予測する。素反応速度——反応経路の自動探索で、人間の仮定を入れずに中間体と素反応のネットワークを描き、個々の反応の速さを見積もって、「どの経路が結晶成長を支配するか」を明らかにする。このように、物理・化学に基づく計算科学と、機械学習・離散数学といった情報科学との融合が、私たちのアプローチの核です。

何が見えてきたか

次世代半導体GaN(窒化ガリウム)のMOVPE成長における素過程を紹介します。

GaとHが共存するGaN表面再構成の第一原理計算結果。吸着原子まわりの電子密度分布を等値面で示した側面図

Ga-H混合吸着による表面再構成

これまでは、GaまたはH吸着で終端された成長表面が、条件に応じて互いに相転移すると考えられてきました。私たちは、両者が共存する再構成の方が熱力学的に安定なこと、そして安定な吸着配置パターンが「局所EC則」や「ntil-max則」で特徴づけられることを見出しました。

文献: APL 2022 · JAP 2024 · arXiv 2026a

分子動力学スナップショット。GaNHユニットのN原子がGa原子を表面から持ち上げたまま移動する様子の側面図

GaNHユニットのリフテッド拡散モード

①のGa吸着箇所がホットスポットとなってNH3が分解され、GaNHユニットが表面に形成されることが報告されており、これがステップ端に取り込まれて成長が進むと期待されています。私たちは、このユニットのGa原子がNHに持ち上げられて拡散する挙動を発見しました。これは従来の静的DFTからは捉えられなかった描像の一例です。

文献: arXiv 2026b

2場面の模式図。左はH吸着原子に塞がれてGaNHユニットの拡散経路がブロックされた状態、右はHが隣のサイトへホッピングして経路が開いた状態

H吸着原子が開閉するGaNH拡散経路

GaNHユニットは、最表面のGa原子との結合によって表面に繋ぎ止められているため、Hに覆われたサイトへは拡散できません。一方で、そのHも隣のサイトへとホッピングして動くため、GaNHの拡散経路は開いたり閉じたりすることがわかりました。

文献: arXiv 2026b

Coming soon — 論文公開後に図を掲載予定

GaとNHの断続的なパートナーシップ

GaNHユニットはGa吸着原子とNH吸着分子へと解離し、それぞれが独立に表面を動いたのち、再び出会ってGaNHユニットを再形成する様子が観察されました。

文献: arXiv 2026b

表面研究から生まれたツール

成長表面での吸着配置を研究するアプローチを一般化すれば、原子配置レベルでの材料設計にも応用できるのではないか。そう考えて開発したのが、原子配置探索ツールPyAPXです。GitHubで公開しており、MITライセンスのもとで自由に利用できます。

PyAPX — Discover new materials by rearranging atoms(原子を並べ替えて新材料を探す)。クリックでGitHubリポジトリへ

伴走サポート——応用力学研究所の共同利用研究の枠組みを通じて、研究所スパコンでPyAPXのテスト計算を実施できます。対象系の特性に合わせた使い方から、ご要望に応じた機能拡張まで、お気軽にご相談ください。