渤海 - 海洋環境計測学研究室 | 海洋生態系分野 - 九州大学応用力学研究所

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柳 哲雄 教授の研究室です!

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渤 海

渤海の海況変動と黄河より流出した懸濁物質の分散と濁水の挙動特性


bohai01-fig01.jpg 黄海の北西部に位置する渤海は、Liaodong Bay(北東部)・Bohai Bay(西部)・Laizhou Bay(南部)といった3つの主要な湾をもち、生物生産・生物多様性の高い海域である。また、その沿岸部には首都・北京を中心として産業の盛んな都市が多数あり、中国の発展を担う大規模な経済圏の一帯を為している。左図に渤海の水深図を示すが、最大水深は約 70 [m] あるものの平均水深は約 20 m と浅い。また、東西 330 [km]・南北 550 [km]・海域面積は約 80,000 [km2] を有し、山東半島と遼東半島に挟まれているため渤海海峡のみで黄海と接している。
 さらに中国第二の河川である黄河や、沿岸部に天津や北京といった大都市を擁している海河が流れ込んでいるために渤海は富栄養化し、懸濁物質や栄養塩など陸域からの環境負荷が、海域内の生態系機能および生物種多様性の変化に大きな影響を及ぼしていると考えられる。特に、黄河から懸濁物質が輸送されてくることはよく知られており、河川の平均流量は 4.1×10^9 [m3 y-1] に達し、2002年における堆積物負荷量は 0.54×10^8 [t y-1] であった(MINISTRY OF WATER RESOURCE OF THE CHINA, 2002)。
 まず、2002年1年間の気象観測衛星NOAAから得られる可視・赤外域データを解析し、渤海における海面水温(SST)特性について紹介し、黄河河口から流出した懸濁物質の分散過程ならびに濁水の挙動特性について、3次元流動モデルを用いたシミュレーションをもとに説明する。

 2002年1月から12月において NOAA AVHRRセンサーにより得られた渤海および周辺海域を含む衛星画像を解析した。衛星画像の水平解像度は 1 [km] × 1 [km] であり、5日ごとに合成(コンポジット)されたものである。渤海におけるSSTの振幅の季節変動を明らかにするために、各メッシュポイントで調和解析を行った。その結果を下図に示すが、SSTの年平均値は南高北低で、その季節変動の振幅は水深の浅い海域で大きく深い海域では小さいことが見て取れる(左:SST年平均値、右:SST季節変動の振幅)。

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 次に、黄河河口から流出した懸濁物質の分散過程ならびに濁水の挙動特性について検討した。これまで渤海については多く研究がされ、潮汐や潮流の特性について明らかにされてきた。しかし、黄河によって渤海まで運ばれてきた懸濁物質の分散過程及び分散特性については明らかにされていない。渤海は、懸濁物質や栄養塩など陸域からの環境負荷により海域内の生態系機能や生物種多様性の変化に大きな影響を及ぼしているので分散過程の解明は不可欠な要素である。
 そこで、渤海での潮汐・潮流・残差流の3次元数値モデルを用いて、黄河を通じて運ばれてくる懸濁物質の輸送過程および挙動特性を明らかにする。
bohai01-fig04.jpg 右図に、デルより計算された4分潮成分(M2(a)、S2(b)、K1(c)、O1(d))の表層での潮流楕円分布図を示す。渤海では半日周期が最も卓越しており、渤海内でのM2と渤海海峡付近でのS1が強いことが分かる。渤海海峡での M2 と S2 の振幅は、それぞれ 50 [cm s-1] と 25 [cm s-1] であった。また、K1 と O1 の振幅はそれぞれ約 10 [cm s-1] であった。ここで、潮流(M2、S2、K1、O1)の計算結果に基づいて、オイラー的およびラグランジュ的手法で導出した潮汐残差流を示す。
bohai01-fig05.jpg 渤海表層におけるオイラー的潮流残差流は最大で 7 [cm s-1] に達し、渤海の北方で反時計回りに流れ、Laizhou Bay 西方で時計回りに流れている(右下図 a)。一方、渤海底層における流れは表層の半分以下で弱い(同図 b)。ラグランジュ的潮汐残差流は表層で約 5 [cm s-1] であるが、渤海中央付近では 1 [cm s-1] と弱く、オイラー的潮汐残差流とは分布は異なっている(同図 c)。bohai01-fig06.jpgこれは、強い半日周期の潮流の影響でストークスドリフトによるものであると考えられる(Feng and Cheng, 1987)。また、Laizhou Bay から Bohai Bay までは沿岸沿いで時計回りに流れていた(同図 a)。潮汐残差流は、オイラー・ラグランジュ的手法の両者で表層流速の半分以下となっていることが窺える。
 左図に、NOAA によって得られた可視域データの年平均場を示すが、これが黄河河口から流出した濁水の挙動特性と見て取れる。同図より、黄河河口からの濁水は北西側へ広がっており、このような河口からの濁りの広がり方は3次元数値モデルによって解析されたラグランジュ的潮汐残差流の方向(上図)とよく一致する。
bohai01-fig07.jpg Neap tide(小潮)とSpring tide(大潮)において、Small・Middle 粒子はラグランジュ的潮汐残差流にしたがう形で Laizhou Bay から Bohai Bay へと岸を左に見る形で沿岸に沿って流れていることが分かる(右図 a)。bohai01-fig08.jpg一方、同図(b)のような密度流も加えた時は、河口表層付近で時計回りの密度流が形成され、Large 粒子と Middle 粒子の一部は右方へ流されているが、残りは同図(a)と同様に岸を左に見る形で沿岸に沿って流れていることが分かる。
 このことは、粒子の分散過程として主にラグランジュ的潮汐残差流が実際の分散過程として近い挙動を示すことを示唆している。また、Large 粒子(50 [μm] 以上の粒子)はほとんど静止したままの状態に見えるが、これは粒子が大きいため海底へ沈降している可能性を示唆している。


milk_arrow01_BL.pngCui,G. and T.Yanagi:Dispersion of suspended sediment originated from the Yellow River in the Bohai Sea. Coastal marine science, 31, 9-18, 2007.
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