地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明

課題.1-1海洋生態系研究室

課題1 海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため、
また、地域の生態系など海洋環境特性の理解を目標とする。 東アジア縁辺海域での水と物質の輸送・混合に関わる、特に表層・亜表層の比較的短時間スケール(1-2年以内)の物理過程を対象とした研究。

瀬戸内海の赤潮発生の経年変動特性。

瀬戸内海における赤潮発生状況の長期変動と赤潮優占種の海域特性に関する研究

  瀬戸内海は、本州・四国・九州に囲まれた我が国最大の半閉鎖性内湾であり、かつては豊潤な水産資源と景観美を誇ってきた。しかし、1960年代から急速に進展した日本の高度経済成長に伴った人為的環境改変により、赤潮や貧酸素/無酸素水塊といった水質機能障害が頻発し、沿岸生態系の攪乱や生物資源の持続性が著しく低下した。瀬戸内海近隣の自治体や沿岸住民は、”瀕死の海”とまで呼ばれた深刻な水質環境を改善するため、様々な水質環境復元活動ならびに水質モニタリング調査を精力的かつ継続的に展開し、近年では瀬戸内海の栄養塩濃度は低下し、底層の溶存酸素濃度は徐々に回復しつつある。
  海洋生態系分野では、これまで栄養塩濃度などの水質データをもとに、瀬戸内海に存在するリン・窒素の大部分が太平洋起源であること、灘湾によっては陸域からのリン・窒素負荷量の削減効果が水質環境に反映されやすい海域と反映されにくい海域が存在することなど、多くの知見を明らかにしてきた。そこで、水質データを解析評価した従来研究とは別の着想から瀬戸内海に対する新たな知見を見出すために、赤潮の発生規模や影響を評価できる指標(赤潮指数)を含む赤潮関連情報の時空間的な基礎データセットを1979年から2004年までの26年分について年単位で構築し解析することで、瀬戸内海における赤潮指数の時空間的な変動傾向や赤潮優占種の海域特性について検討評価を行なった。
  瀬戸内海における赤潮指数の空間変動特性を調べた結果、大阪湾は湾奥部を中心にほぼ毎年大規模な赤潮が発生し他の海域に比べて赤潮指数が突出していること、大阪湾に次いで播磨灘・燧灘東部・広島湾北部・別府湾西部・周防灘北部でも赤潮指数が高く赤潮の発生が顕著であることが判明した(図1)。また、赤潮発生域と貧酸素水塊形成域の関連性に着目し、赤潮指数密度(水域面積で除した規格化赤潮指数)と底層溶存酸素濃度の関係を調べた結果、赤潮指数密度が高い(低い)ほど、底層溶存酸素濃度が低い(高い)傾向にあることが判明した(図2)。このことから、瀬戸内海の表層における赤潮発生域と底層における貧酸素水塊形成域との関係は、海中での基礎生産が活発な表層において植物プランクトンの大増殖(異常増殖)により赤潮が発生し、やがてそれらが枯死・沈降し、底層における有機物の分解に伴う酸素消費の増進と夏季の成層強化に伴う鉛直的な酸素供給の減退により底層が貧酸素化する、という鉛直一次元過程でほぼ説明可能であることが示唆された。

図1. 全期間(1979年-2004年)で時間平均した瀬戸内海における赤潮指数の空間分布

図2. 瀬戸内海各海域における赤潮指数密度と底層溶存酸素濃度の関係

  次に、瀬戸内海(大阪湾以外)と大阪湾における赤潮指数の時間変動特性を調べた結果、瀬戸内海(大阪湾以外)における赤潮指数の長期変動は1990年付近を極小とした増減傾向を示す一方、大阪湾のそれは約30年間顕著な減少傾向を示すことが判明した(図3)。そこで、両海域における赤潮指数の長期変動を決める要因について検討した結果、瀬戸内海(大阪湾以外)では主に太陽から享受する全天日射量、大阪湾では陸域からの寄与が大きい栄養塩濃度といった、植物プランクトンの基礎生産に重要な役割を果たす要素が、赤潮指数の長期変動を決める要因であることを示唆する結果を得た(図3)。

図3. 瀬戸内海(大阪湾以外)(a)と大阪湾(b)における赤潮指数の経年変動(左列)と全天日射量(右上)および全リン/全窒素濃度(右下)の時系列

  さらに、赤潮構成種の分類ごと(珪藻種・非珪藻種・複合種)の赤潮指数から算出した赤潮優占率をもとに、瀬戸内海(大阪湾以外)および大阪湾における赤潮の卓越種について調べた結果、瀬戸内海(大阪湾以外)では全般的に非珪藻種が優占する一方、大阪湾では非珪藻種から珪藻種へ長期的に優占種が遷移するパターンが確認された(図4)。今後も更なる検討が必要であるが、これは大阪湾の水環境が非珪藻種よりも珪藻種が有利に増殖しやすい沿岸生態系および物質循環系へ長期的に移行した影響によるものが考えられる。

図4. 瀬戸内海(大阪湾以外)(a)と大阪湾(b)における赤潮優占率の時系列

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