地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明

課題.1-3大気環境モデリング研究室

課題1 海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため、
また、地域の生態系など海洋環境特性の理解を目標とする。 大気を通じて大陸から日本列島を含む縁辺海域に運ばれる物質が地域の海洋・大気環境に及ぼす影響に関する研究。

紫外ライダー装置の立ち上げとアジア起源エアロゾルの観測。
ライダーデータと衛星データ解析用ソフトの整備。

東アジアスケールのエアロゾルの動態の把握とモデリング研究

 2013年1月に北京など中国の広範囲の都市域で、健康被害をもたらすPM2.5の高濃度スモッグが発生し、12日には時間値の最大で993 µg/m3に達し、「深刻な汚染」が報じられた。
 本研究では、アジア域の大気汚染の越境輸送過程の解明などを対象に、エアロゾルの動態解明と数値モデリングを進めている。

化学輸送モデルの概要(GEOS-Chemモデル)

ハーバード大学のグループが中心となって開発しているGEOS Chemモデルを用いました。
気相とエアロゾル反応を含むオプションを持い、全球格子にアジア域を0.5˚ x 0.667˚の解像度で1way nestしています。
アジア域の解像度は、一般的に用いられている領域化学輸送モデルと同程度です。

PM2.5の日変化の比較

2013年1月のモデル解析結果
点線はアメリカ大使館のPM2.5と福岡のPM2.5の測定結果(日平均)。カラーの積み上げグラフはモデル計算のエアロゾル濃度。北京の観測では日平均で600µg/m3を超える。
どの地点もエアロゾルの主要成分はSO4, NO3, NH4の二次生成エアロゾルである。
SO4については、北京でのAMSの測定と較べて概ね良い一致。
モデルはSO4過小、NO3は過大の傾向があるが、PM2.5としては、相関が0.78以上で再現性は高い。

2013年と2012年でどう違うか?    PM2.5でみると。。。

同じ排出量を与えても、2013年の方がPM2.5の濃度が圧倒的に高い。
これは2013年の気象が特異的だったことを意味する。

10年間の変化はどうか?    各年の1月の平均に着目する

ここでは、シベリア高気圧強度(Siberia High-Pressure Intensity; SHI: E 90˚– 110˚、N 40˚– 60˚の平均海面更正気圧)を指標に使う。
1月の濃度との直接的な関係を示すために1月の平均値を用いる。SHIは、米国NCEP の全球再解析データを用いて、1958–1980年の平均値 (1029.1hPa) と標準偏差 (2.76hPa) で規格化する。
2004年 – 2013年の各年の1月について、
上の図は、NASA の全球同化気象データ (GEOS-5) で得られた北京の平均風速と温位勾配(高度1500mと70mの温位差)、
下の図は、NCEP-SHI, GEOS Chemモデルで計算された北京・ 福岡のPM2.5月平均濃度の経年変化を示す。図中には、北京のアメリカ大使館のPM2.5月平均濃度も赤で示す。
北京での風速とPM2.5濃度は逆相関、温位差とPM2.5濃度は正相関が明瞭である。
個の図から、SHIは小さいと濃度が高く、SHIが大きいと濃度は低いことが明瞭に判る。
また、2013年1月のSHIはこの10年でもっとも弱く、風速も弱く、温位差が最大(安定で高濃度化しやすい気象条件)でPM2.5が高濃度化したことが明瞭に示され、2013年1月の気象条件が例年になく特異であったことが判る。
一方、福岡の平均濃度には北京と顕著な相関は見られない。

日本への越境輸送を調べる-収支解析

中国CECは、弱風・安定で高濃度になった。

疑問点は、弱風下でも日本への輸送される量は増えるのか? つまり、日本も高濃度になるのか?

物理的には、排出量が同じで、弱風・安定なら中国東部は高濃度。高濃度を維持するには、流れ出す量も少なくては行けない。

中国東部の水平1000kmの高度3kmの格子で収支を調べる。

SHIが弱くなると、風速が弱くなり、CEC域は高濃度になることが示された。
しかし、風速が弱いので、CECの東端の経度面(E 123˚面)を超えて域外に輸送される質量フラックスは減少する可能性が高い。
つまり、高濃度は中国CEC域内にある程度限定され、CEC域内が高濃度だから日本への輸送フラックスも増えるという論理が正しいかは確認する必要がある。

収支解析の結果-2013年の水平輸送が特別多いわけではない

高度3 km以下の平均濃度 CCEC は、先に示した北京の地上の PM2.5と同様に2013年に濃度が高い。
BC 沈着量とCCECは相関が高く(R=0.83)、濃度が高いほど沈着量が大きいことを意味する。
これに対して、上段に示したCECから領域外への水平輸送フラックスは、年によってバラツキが大きく、CCECとの明瞭な関係が見えない。
領域外への水平輸送フラックスは、2013年に特別大きな値を取っておらず、むしろ2007年や2011年の方が2013年よりも大きいことが判る。

2013年1月の高濃度解析の結論

2004年–2013年の東アジア域のエアロゾル濃度の経年変化のモデル解析を行った。

2013年1月は例年になくシベリア高気圧強度が弱く、中国東部で高濃度汚染の起こりやすい条件であったため、PM2.5の超高濃度汚染が発現したことを明らかにした。(気象条件が特異であった)。

収支解析の結果から、2013年1月は例年に比較して、日本域への輸送量の大きな増加はなく、高濃度の頻度も例年より少なかった。

今後は、新たに九大に設置された観測装置と連携したモデル解析をすすめる。

東アジアスケールのエアロゾルの動態の把握するために本研究プロジェクトの一部として新たに導入された観測装置(導入には、科学研究費基盤研究Sの研究費も利用している)

多波長ミー・ラマン散乱式大気環境計測ライダー
エアロゾル(特に大気汚染粒子)による気候・大気環境への影響評価の向上を主眼とし、アジア域の主要なエアロゾル種の光学特性の時空間分布、およびその動態を対流圏内で連続的に計測し、地上観測およびデータ解析を行い、モデル同化のための観測・解析データセットを構築する。
大気エアロゾル化学成分連続自動分析装置ACSA-12を導入した。この装置を用いることで、硫酸塩、硝酸塩、元素状炭素、水溶性有機炭素の成分とPM2.5, PM10の重量濃度を1時間毎に測定することが可能となり、モデル解析と比較することでエアロゾルの越境汚染の特徴を詳細に解析することが可能となった。
偏光式光散乱式粒子計測装置(POPC)を導入し、黄砂粒子、人為起源微粒子を分離し、エアロゾルの粒子濃度を粒径毎に測ることが可能となりました。
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