地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明

課題.1-1海洋動態解析研究室

課題1 海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため、
また、地域の生態系など海洋環境特性の理解を目標とする。 東アジア縁辺海域での水と物質の輸送・混合に関わる、特に表層・亜表層の比較的短時間スケール(1-2年以内)の物理過程を対象とした研究。

台湾海峡から東シナ海陸棚域を経て日本海に至る海水輸送過程。

台湾海峡通過流量のモニタリング。

  1. 背景と目的
    背景
      北太平洋亜熱帯循環の一部をなす黒潮は、台湾の東を北上し、その大部分が台湾と与那国島の間を通って東シナ海に流入している。東シナ海に入った黒潮は大陸斜面に沿って流れ、九州南方でトカラ海峡を通過してまた太平洋に戻る。一方、対馬海峡を通過して日本海の表層環境を支配する対馬暖流も黒潮の影響を受けた性質を持っている。東シナ海にはもう1カ所外と繋がっている台湾海峡からの流入がある。台湾海峡を通過した流れは東シナ海陸棚域の循環構造に大きな影響を及ぼしているが、その実態はまだよくわかっていない。また、黒潮から陸棚域に流入する海水とそれに含まれる物質は、陸棚域の海洋環境に大きな影響を及ぼしていると考えられているが、その定量的評価も実測に基づいたものはまだほとんどない。
    目的
    台湾海峡通過流量のモニタリングの実現。
    黒潮から陸棚域への正味の流入量の見積もり。
  2. 海峡横断フェリーを利用したモニタリング
    • 国立台湾大学との共同研究により、超音波を利用した多層流向流速計(ADCP)を台湾海峡を横断する定期フェリーに搭載し、台湾海峡を通過する流れのモニタリングを行っている。
    • フェリーが海峡を横断する度に,航路上の流れ場の分布や海峡通過流量を得ることが出来る。
    • 定期フェリー ”台馬”
      • 基隆(Keelung) ← → 馬祖諸島(Matsu Islands)
      • 1日で1往復:週6便
  3. モニタリングデータ
    • 台湾海峡通過流量 : 2009/1/16 ~ 2011/11/26 (ただし冬季は悪天候による欠測が多い)
    • 対馬海峡通過流量 : 博多‐釜山を往復するフェリーによるモニタリング (1997/2~)
  4. 台湾暖流の流量変動
    • 航路に沿う断面の流速分布から、海峡を通過して東シナ海に流入する流量を算出した。
    • 明瞭な季節変動
      • 年平均値は 1.8 (Sv=106・m3・s-1)
      • 夏に最大(2.8 Sv),冬に最小値(0.5 Sv)
    • 海峡に沿って吹く風と強い相関を示す。
  5. 対馬海峡通過流量との比較・黒潮からの貫入
    • 台湾海峡通過流は明瞭な季節変動を示している。
      夏季には比較的変動の少ない2~3 Sv(106 m3・s-1)程度、秋季から春季に掛けては変動が大きく、0~2Sv程度の台湾海峡を通過して東シナ海に向かう流れがある。
    • また、対馬海峡通過流陵と比較すると黒潮から東シナ海陸棚域への正味の流入量には明瞭な季節変動があり、夏季に小さくなる傾向が見られた。
      この季節変動は、東シナ海全域の風によって駆動される表層流(エクマン輸送)に依存している可能性が示された。

漂流ブイによる台湾暖流の観測

台湾海峡から流れ出る台湾暖流は、東シナ海における物質循環を考える上で重要であるが、その流路については不明な点が多い。そこで2008 年5 月と7 月に台湾海峡北部に人工衛星追尾式の漂流ブイを投入しラグランジュ的な視点から調査を行った。

  1. 台湾海峡東部に投入したブイは、台湾北方の冷水渦に取り込まれ複雑な軌跡を示した。
  2. 海峡西部に投入したブイは70-80m の等深線に沿って約0.5m/s の速度で安定して北東方向に流れた。(台湾暖流の流軸に対応)。
  3. 123゚30’E 付近の海山の影響で軌跡は南偏し、それ以東では不安定な流路を示す。

済州島から日本海沿岸にかけての低塩分水の伝播と希釈過程の中・長期変動。

日本海に流入した長江希釈水の挙動

夏季に長江(揚子江)から東シナ海に流出した淡水は、海水と混合し、長江希釈水となって日本海へと運ばれる。長江希釈水が日本海の中をどのように広がってゆくのかを、沿岸に配置した水温・塩分計で追跡した。長江希釈水の移流速度や、大型クラゲの出現との関連が明らかとなった。

対馬海峡東縁で観測されたフロント渦

対馬海峡東水道の蓋井島では、冬季に鋸歯状の水温変動が観測される。その原因を調べるために2009年11月にXBTを用いた観測を行った結果、対馬暖流東縁の水温前線の蛇行(フロント渦)が原因であることが判明した。

対馬海峡における塩分の経年変化と長江流量との関係

長江から流出する莫大な淡水は、東シナ海のみならず、対馬海峡を通して日本海にも流入するが、その挙動や変動特性については未知な点が多い。ここでは、日本海への入り口である対馬海峡での塩分の経年変動と、長江流量との関連を調査した結果を紹介する。

対馬海峡で継続的に行われてきた海洋観測の資料を解析した結果、以下のことが明らかとなった。

  1. 塩分場の経年変動で最も卓越しているのは、東西両水道で一斉に塩分が増加・減少するような変動である。
  2. この変動は、長江流量の変動と有意な相関を示す。
  3. 通常の年には低塩分水のほとんどは西水道を通っているが、長江流量が多い年には東水道にも波及し、海峡全体の塩分が低下する傾向がある。

東シナ海から日本海に流入する淡水量の時間変動

日本海には、東シナ海から大量の大陸河川起源の淡水が流入しているが、その影響を定量的に評価するためには、流れ込む淡水量の時間変化を知る必要がある。ここでは、日本海への入口である対馬海峡で過去30年間に亘って行われてきた海洋観測の資料から、日本海に流入する淡水量の時間変動を推定した研究を紹介する。

推定された淡水輸送量の時間変動特性
  1. 東西両水道とも季節変動が卓越しており、8月に最大,4月に最小を示す。また、年平均輸送量は、4.4×104 m3/s である。
  2. 経年変動は夏季に大きく、東水道の輸送量は、長江流量の変動と有意な相関を示す。

冬季の対馬海峡における水温構造の長期変化

近年、九州沿岸では熱帯・亜熱帯性生物の出現が頻繁に報告されている。そこで、対馬海峡で得られた海洋観測資料に基づいて、1970年代以降の水温変化の状況を調査した。

  1. 1970 年代に比べて、1990年代の方が冬季(12-4 月)の水温は0.6℃以上高かった
  2. 昇温は両水道とも海面から海底にまで達しており、統計的に有意なものであった。
  3. 両水道とも1970年代以降、一貫して昇温傾向を示していた。
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