地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明

課題.1-1海洋環境物理研究室

課題1 海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため、
また、地域の生態系など海洋環境特性の理解を目標とする。 東アジア縁辺海域での水と物質の輸送・混合に関わる、特に表層・亜表層の比較的短時間スケール(1-2年以内)の物理過程を対象とした研究。

漂流ブイデータと高度計データの併用。

沿岸域の海面高度計処理法の確立。

しかし,浅海沿岸域で,どの程度高度計が使えるのか不明

    • 外洋に比べて小さな時空間スケール
    • 浅い・岸が近いなど,非地衡流成分が無視できない要素も満載
  • 世界の高度計業界でも,沿岸域への注目は高い
    • Coastal Altimetry Workshop
    • NASA/CNESやJAXAが,沿岸用の海面高度計を計画

そこで,沿岸海面高度の実測を試みる

  • 現場観測が豊富な対馬海峡で大型のフェリー「ニューかめりあ」に搭載したRTK GPSで海面高度を計測する

  • 30秒間隔計測し,波浪の影響を軽減するため15分間航路沿いに平均
  • 潮汐とジオイドをモデル推定値で除き,海面力学高度を推定
  • フェリー船底のADCPで計測した18m深の海流から潮汐成分を除いたもの(Fukudome et al., 2010)を,地衡流を仮定して積分して海面力学高度を求めて比較する

時間平均

  • 時間平均したGPS海面力学高度(緑)と,ADCP(赤)は,数cmの範囲内で一致した。

時間偏差アノマリーのスナップショット観測

  • しかし,1日毎のスナップショット観測では,20-30kmくらいのスケールで10cm程度の大きさの差が見られる。
    • 時間的に継続性がなく,比較的小さいスケールなため,非地衡流成分の海面高度変動だと考えられる。
  • この変動を適切に分離できないと,沿岸域での海面高度計の利用は困難となる

空間平滑化

  • 30kmの空間平滑化を施すと,両者は良く一致する。
  • ただし,O(10cm)の,周期性のある長波長の差が存在している。
  • これは,潮汐モデルの誤差である。

台湾海峡と対馬海峡の変動と、黒潮変動との関連性の評価。

  • 黒潮上流域の変動モニタリング
    • 台湾東方での陸棚斜面への黒潮の乗り上げは重要
  • 台湾沿岸全域に設置されたTORIのレーダと,与那国に設置された海洋レーダを併用して,黒潮を両側から全幅を計測する計画を進行中

台湾東沖での渦と黒潮との相互作用がもたらす黒潮亜表層水の輸送過程の研究。

  東シナ海陸棚域は、世界でも有数の生物基礎生産が盛んな海域として知られている。この活発な生物基礎生産を支えている栄養塩の起源として、長江河川水と黒潮亜表層水の二つが挙げられる。黒潮が北向きから北東向きに流向を変える台湾北東沖は、このうち栄養塩に富んだ黒潮亜表層水が、陸棚斜面を横切って東シナ海陸棚域へと貫入する主要な海域にあたっている。
  海洋環境物理研究室では、石垣島と与那国島に設置した遠距離海洋レーダで得られた、高時空間分解能の海表面流速データを解析して、台湾北東沖における黒潮の数カ月程度の短期変動に、流速が小さい(大きい)時に流軸が北偏(南偏)する関係が存在していることを明らかにした。さらに、衛星海面高度計データとの相関解析により、このような流速の減少(増加)と流軸の北偏(南偏)が、台湾東沖での低気圧性(高気圧性)渦と黒潮との相互作用によって引き起こされている可能性を指摘した。
  このような観測結果を念頭に、現実的な海底地形、密度成層の効果を取り入れた、流入・流出モデルを用いて数値実験を行い、まず、台湾の東側から高気圧性と低気圧性の中規模渦を60~120日周期で交互に黒潮と相互作用させることで、台湾北東沖における黒潮の短期変動の再現に成功した(図1)。

図1. 台湾北東沖123.35°Eでの海表面における(上)黒潮流速の最大値、および、(下)黒潮流軸の緯度の時系列。細い実線は平均値を、陰影の幅は標準偏差を表す。両者の間には負の相関(相関係数 -0.760、有意水準1%)がみてとれる。

  次に、この数値モデルにトレーサーを導入して、台湾東沖での低気圧性・高気圧性の中規模渦と黒潮との相互作用が、黒潮亜表層水の台湾北東沖陸棚域への輸送過程に及ぼす影響について個別に考察を行った。黒潮亜表層水を模したトレーサーは、海洋動態解析研究室が明らかにした水塊分布を参考に、台湾東沖の陸棚斜面の200m以深で時々刻々注入した。その際、有光層内での植物プランクトンによる栄養塩の消費過程を、35m以浅のトレーサーに減衰時間スケール3日のダンピングを適用することで考慮した。
  図2に、低気圧性・高気圧性の中規模渦を黒潮と相互作用させた場合の、海表面流速場、および、35m以浅で積分したトレーサー体積の時間変化の比較を示す。台湾東沖での低気圧性(高気圧性)の中規模渦と黒潮との相互作用によって、台湾北東沖での黒潮流速の減少(増加)および黒潮流軸の北偏(南偏)が引き起こされている様子が、中規模渦を投入してから15日後の海表面流速場にみてとれる。この時点では両ケースともに、黒潮が陸棚斜面を横切る25°50’N, 123°E付近にトレーサーが分布しており、その体積にもほとんど違いがみられない。ところが、低気圧性の中規模渦を投入してから30日後には、トレーサーが台湾北東沖の陸棚域ほぼ全体に広がっているのに対し、高気圧性の中規模渦を投入してから30日後のトレーサー体積は逆に減少してしまっている。この結果は、台湾北東沖陸棚域への黒潮亜表層水の輸送量を評価する際に、台湾東沖の、特に低気圧性の中規模渦の果たす役割が重要であることを示唆している。

図2. (左)低気圧性、(右)高気圧性の中規模渦を投入した場合の海表面流速場(ベクトル)、および、35m以浅で積分したトレーサー体積(トーン)の時間変化。黒塗りは陸地を表す。

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