地球温暖化と急激な経済発展が東アジア域の海洋・大気環境に及ぼす影響の解明

課題.1-3大気物理研究室

課題1 海洋・大気中の様々な物質の輸送・混合過程を解明するため、
また、地域の生態系など海洋環境特性の理解を目標とする。 大気を通じて大陸から日本列島を含む縁辺海域に運ばれる物質が地域の海洋・大気環境に及ぼす影響に関する研究。

衛星搭載・地上型ライダとレーダを使用したアジア域における雲の物理特性のリトリーバル手法の開発と高精度化。
衛星搭載・地上型ライダを利用したアジア域におけるエアロゾル物理特性の解析手法の開発。

衛星搭載ライダとレーダによる雲とエアロゾル特性解析

 雲とエアロゾルの気候システム形成の役割を知るためには、雲とエアロゾルの3次元分布といった巨視的性質と、雲粒子の相や氷粒子のタイプ、エアロゾルのタイプ、そして雲粒子サイズや氷水量や雲水量等の微物理量、エアロゾルのサイズ分布、濃度分布を把握することが必要となる。太陽光等の自然起源の電磁波を利用するパッシブセンサでは、雲とエアロゾルの鉛直分布の特性を把握することが原理的に困難であった。この問題を根本的に解決する観測機器として、自ら発信する電磁波を利用するアクティブセンサが期待されている。雲レーダはCloudSat衛星に、ライダはCALIPSO衛星に搭載され、双方の衛星とも2006年に打ち上げられ、今日に至るまで観測データの蓄積が行われている。我々はこれらの人工衛星に搭載された94GHz雲レーダとライダのデータを複合利用することで、雲とエアロゾルの物理特性の全球解析を実施している。また東アジア域とそれ以外の地域との比較、季節変動特性の解析を行っている。衛星解析によって得られたデータセットは、地上観測データ等との比較検証を通して、解析アルゴリズムの開発と改良が実施されている。

 日欧共同衛星ミッションで、2016年に打ち上げ予定のEarthCARE衛星の解析に利用するアルゴリズムの開発も実施している。EarthCARE 衛星には、次世代型アクティブセンサである、ドップラー機能を持つ94GHz雲レーダ、高分解能ライダなど4種類の観測機器の搭載が予定されている(図1)。このEarthCARE衛星データの解析アルゴリズムの開発と検証を実施しており、そして有効な利用についても検討している。

図1 ドップラー速度を観測できる94GHz雲レーダと、高分解能ライダ等4種類の観測機器を搭載する日欧共同衛星ミッションEarthCARE。2016年に打ち上げ予定である。(イメージ ESA提供)

 雲レーダやライダから雲の巨視的性質を求めるには、雲マスクと呼ばれるアルゴリズムを適用する。雲レーダの信号からノイズと雲域の識別を行うのである。ライダの信号からも同様に雲とそれ以外のエアロゾルやノイズの信号との識別を行う必要がある。雲の相識別や氷粒子のタイプ識別は、ライダの減衰量と偏光解消度より行う。雲の相識別の後で、雲レーダやライダの観測量を複合的に利用し、最終的に水雲や氷粒子サイズや氷水量や雲水量等の微物理量を抽出することが可能となる。図2には、CloudSat衛星に搭載された雲レーダによって検出された雲と降水の領域におけるレーダ反射因子を示している。青色は小さい粒子を、赤になるほど大きな粒子である。図3には、同じ時刻と場所の解析シーンだが、CALIPSO衛星に搭載されたライダによって得られた雲域のライダ後方散乱係数を示す。エアロゾルやノイズのシーンはすでに雲マスクアルゴリズムによって除去されている。図4には同じくCALIPSOに搭載されたライダによって得られた偏光解消度を示している。最下層をのぞくと40%程度の値を示しており、これは氷粒子であることを示している。最下層では、ライダの減衰量が弱く、偏光解消度が小さいことから、水平面に配向した平板状の氷粒子が存在していることがわかる。

図2 CloudSat衛星に搭載された雲レーダによって観測された雲と降水領域のレーダ反射因子。

図3 図2と同じシーンだが、CALIPSO衛星に搭載されたライダによって抽出された、波長532nmにおける雲域の減衰の影響を受けたライダ後方散乱係数。

図4 CALIPSO衛星に搭載されたライダによって観測された雲域の偏光解消度。

 これらの雲レーダからのレーダ反射因子、ライダからの後方散乱係数、そして偏光解消度を用いて、雲レーダ・ライダ解析アルゴリズムを適用することで、この雲域における雲の微物理特性を抽出することができる(図5)。上層では30ミクロン程度と小さい粒子が存在しているが、下層にいくに従って成長し、100ミクロンを超える粒子となっていることがわかる。このような詳細な雲微物理特性は、雲レーダやライダの利用によって初めて解析が可能になったのである。

図5 CloudSat衛星とCALIPSO衛星の複合解析から得られた氷雲の中の粒子の有効半径。

 このようなアルゴリズムを用いることで、雲微物理特性の全球解析を行った結果を図6に示す。雲の雲頂高度は、圏界面によってほぼ規定されていることがわかる。上層では緯度にかかわらず、30ミクロン程度と小さい。下層では粒子サイズは緯度によって大きく変化し、北半球の中緯度付近ではやや他の領域より小さい。全緯度帯において、同じ緯度では高度が低くなると急激に粒子サイズが大きくなっている。

図6 CloudSatとCALIPSO衛星の同時解析から得られた氷雲の有効半径の緯度高度断面図。

 ライダは雲だけでなくエアロゾルにも検出感度を持つ。大気中には、硫酸エアロゾル、炭素性エアロゾル、ダストや海塩粒子等様々なタイプのエアロゾルが存在している。これらの発生頻度は時間や場所によって大きく異なる。エアロゾルの検出にはパッシブセンサが利用されてきたが、鉛直方向の情報は得られず、また陸面においては陸面反射率の変化のためエアロゾルの定量的把握が困難であるという問題があった。衛星に搭載されたライダを用いれば、このような困難が回避できる。CALIPSO衛星では波長532nmと1064nmの後方散乱係数と波長532nmにおける偏光解消度を利用することができる。これらをすべて利用することで、エアロゾルのタイプ識別と、それらの消散係数を求めることができる(図7)。

図7 CALIPSOの解析から得られたエアロゾルの消散係数。

 2016年に打ち上げ予定のEarthCARE衛星にはCloudSat衛星にはなかったドップラー機能を持つ雲レーダCPRが搭載される。これによって、雲の内部における対流等による上下運動の検出が可能となる。また大気の運動が無視できる場合には粒子の落下速度を求めることが可能になると期待される。EarthCAREにはまた、高分解能ライダATLIDが搭載される。CALIPSOでは直接観測することができなかった消散係数を、ATLIDの高分解能機能から求めることができるのが大きな特徴である。  図8にはCloudSatとCALIPSO衛星のデータから推定されたEarthCARE衛星の雲レーダで観測されるドップラー速度の時間高度断面を示している。上層の雲域では小さい速度だが、下層の降水領域では、ドップラー速度が4m/sを超えているところが散見される。この新しい観測要素を解析アルゴリズムで利用することで、雲の微物理特性や降水・降雪フラックスを、より精度よく求めることが可能になると期待される。

図8 EarthCARE衛星で観測される雲と降水のドップラー速度。CloudSat衛星とCALIPSO衛星の解析によってシミュレーションされたもの。

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