主な研究課題


1.黒潮の流量および熱流量の評価 黒潮は世界最強の海流の一つで,膨大な量の海水を南から北へ運び,北太平洋の熱の再分配に重要な役割を果たしている.本研究分野では,四国沖に黒潮および黒潮反流を横断する観測線を設け,国内外の多数の研究機関と共同で船舶や係留系などの現場観測を行った.この観測データと人工衛星データなどを統合して,北太平洋亜熱帯域での流量・熱流量やその季節変動を評価する.

黒潮断面図fig.4

2.黒潮の変動の予測可能性 四国沖の黒潮の観測データや人工衛星データなどをもとに,北太平洋全域の風応力の変動や,中規模渦による局所的な作用などが,黒潮の変動とどのように対応しているかを調べ,黒潮の変動の原因を明らかにする.さらに,こうして得られた知見をもとに,数値計算などによって黒潮の短期や長期の変動をどの程度予測することができるか検討する.

黒潮流量fig.7

3.中規模渦の発生・発達・移動・消滅過程 海洋の表層では,多くの変動は中規模渦と呼ばれる擾乱として西方に伝播する.これらの渦動は,海洋の成層状態や海底地形の有無などに応じて伝播特性を変え,中規模渦どうしや黒潮などと複雑な相互作用を繰り返す.人工衛星データの解析や,データ同化の手法を用いて,これらの中規模渦の伝播特性や発生源などを明らかにし,さまざまなスケールの海洋変動の要因を解明する.

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人工衛星に搭載した海面高度計のデータから求めた,1993年1月初旬の北太平洋の海面力学高度分布(時間変動成分).
等値線の間隔は10 cmで,暖色は海面が盛り上がった部分,寒色は凹んだ部分を示す.北海道程度の大きさの渦(中規模渦)が,日本の東方に多数存在しているのが見える.これらは,数cm/secのゆっくりとした速度で西に進んでいる.

4.中規模渦による水塊や物理量の交換過程の解明 中規模渦には,周辺の物質を有効に拡散する波動的な性質と,渦自身とともに水塊を移動させる渦動的な性質がある.人工衛星データなどによる大洋の流速場の時系列の観測から,海洋における水塊交換や,熱・運動量・渦度などの物理量の交換において中規模渦が果たす役割を解明する.

5.海洋循環における変動過程の研究  変動量と平均量は時空間スケールや座標等の選択により相補的に変化する.海洋循環における変動の物理的役割や解析結果に対する影響を,データ解析や数値モデルを用いて調べる.

6.多種海洋観測データの解析手法の研究 人工衛星は広域を繰り返し観測できるが,海洋の表層しか計測できない.一方,現場観測は集中的な計測ができるが,時間も場所も限定される.これらのデータを,互いに矛盾しないように統合し,必要な情報を有効に取り出し,長期間の海洋モニターを可能にする手法を開発する.