九州大学 応用力学研究所
海洋動態解析分野(海洋循環研究室)
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中国三峡ダムの建設が
東シナ海および日本海の海洋環境に及ぼす影響の評価に関する研究

研究背景
 地球温暖化を始め、地球環境がかつてない規模で変化し始めていることを多くの人が認識するようになってきた。しかしそれでもなお、人々は目先の利益の追求に余念がない。海洋環境はまさにその典型である。人々の暮らしから遠く、ちょっと夢のある学問くらいにしか捉えていない。しかし、既に海は変わり始めている、ゆっくりと、しかしもう簡単には元に戻せない大きな慣性を持って。
 人間の様々な営為は、様々な形で海の環境に影響を与えている。経済活動の規模が大きくなるにつれて、それは沿岸から縁辺海にそして外洋へと広がっていく。今、東シナ海や日本海などの縁辺海の環境が変わり始めている。それにどの程度陸域の環境変化が寄与しているのか、地球規模の変動はどのように地域の海洋環境に現われてくるのか、はっきりしたことは何もわかっていない。
 たとえば巨大クラゲの大量回遊のように、時々突発的に発せられる警告もあるが、その原因について、われわれはすぐ答えられるだけの知見をまだ獲得していない。普段海の環境はどのように維持され変動しているのか、その自然の営みを正しく知っていてこそ異変の理由を説くことができる。
 私たちの研究室では、東シナ海・日本海を中心とした東アジアの縁辺海で何が起こっているのか、その物理過程を中心に海洋現象の解明を目指している。そのひとつは陸起源水の指標となる河川水、特に中国大陸の大河、長江起源水の挙動である。

1991から1999年までの長江の流量  (From Zhu et al. 2001)
一方、長江が注ぐ東シナ海は広い大陸棚を擁し、高い生物生産を持った海域として知られている。河川を通じて海に運ばれる様々な物質は海洋生物の生態に大きな影響を与えており、東シナ海の生物環境は河川水の影響を無視しては考えられない。

さらに、長江から東シナ海に流入した河川水の多くの部分が対馬海峡を経由して日本海に流入する。その流入する水の海水密度は含まれる河川水の割合に依存しているため、対馬海流に含まれる河川水の量は日本海の海洋循環を大きく支配している可能性がある。また、そこに含まれる栄養分が日本海の生物生産を支えているという見方があり、長江等河川水の影響は東シナ海にとどまらず日本海の生態系にも無視できない影響を及ぼすと考えられている。
大陸起源の水を多く含む水塊に水温・塩分センサー付きの漂流ブイを投入し、それを衛星通信を用いて追跡することによって、大陸起源の水が大陸棚上を広がっていく様相が明らかになる。また、同時に行う船舶観測で得られる低塩分水の水平的な分布、あるいは衛星観測による水色分布と漂流ブイの軌跡とを併せて解析することによって、大規模な河川水が大陸棚域に流入したのちの拡散過程の時空間スケールについて、量的な評価が可能になる。これは、三峡ダムの完成後の海域環境評価に欠かせぬ知見となる。

陸起源水の海洋における時間スケールを明らかにすることによって、過去に得られている多くのデータに対して時間スケールを仮定した見方ができるようになるので、既存のデータのなかに埋もれていた新たな情報を引き出すことが可能となる。これは過去のデータに新たな意味を与えるという点でも大きな意義がある。

さらに、低塩分水および黒潮双方の影響を受けた対馬海流の変動と日本海の循環および生物環境との関係に注目する。特に鉛直方向の拡散の強さを直接測定することによって、対馬海峡から流入する水と日本海固有水との相互作用、すなわち日本海に流入する大陸起源水が日本海の深層循環に及ぼす影響を評価しようとする点、同時に日本海の基礎生物生産を、河川水の影響を受けた東シナ海の海洋環境と関連させて評価する点に本研究の特色がある。
研究経過
漂流ブイ観測
同位体比
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