センター紹介

アジア域は世界で一番大気汚染物質の排出の多い地域である。人間の生産活動による人為起源の排出の他にも、森林火災などの自然現象に起因する大気微粒子の発生も無視できない。SO2排出に起因する硫酸塩粒子は温暖化を制御する方向に、黒色炭素粒子(Black Carbon; BC)は温暖化を加速する方向へ作用するが、正確な寄与の評価には高度分布の情報を含めて不確実さが多い。アジア域はこれ以外にも、鉱物粒子(黄砂)や海塩粒子の寄与も大きい。エアロゾルの大気中の寿命は長くても1−2週間程度で時間・空間的にも大きな変動を示す。アジアから地中海の上部対流圏から下部成層圏にかけては、散乱比で10% を超える巨大な人為起源エアロゾル層の存在も報告されている。エアロゾルの温暖化への寄与の大きさは組成・粒径・分布高度にも深く関係することから、これらの情報を含む計測・モデル化が最重要であるが、現状は不十分である。

CIARセンターは、科学研究費基盤研究S「多波長ライダーと化学輸送モデルを統合したエアロゾル5次元同化に関する先導的研究」と連携し、アジア域の主要な大気汚染物質の発生源からの流れを把握するために緯度帯・気候帯を代表する3地点(沖縄・福岡・富山)に多波長のラマン・ミー散乱ライダーを設置し、エアロゾル組成・空間分布の連続測定を行う。それをもとに、黒色炭素(BC)成分を含むエアロゾルの組成を高精度でリトリーバルするアルゴリズムを開発し、これらの観測値を拘束条件として、多成分同時同化化学輸送インバースモデルを構築し、高精度のBCや人為起源エアロゾルの5次元(時間・地点・組成)のエアロゾル分布の再解析データベースを構築する。

センターの研究は観測・モデルの統合研究に最大の特徴がある。従来、独立に行われていた地上・リモートセンシング計測結果の解析、排出量推計、化学物質輸送モデルシミュレーション解析を、データ同化手法を用いて統合する点がユニークである。則ち、ライダー計測のリトリーバル研究分野、人間活動に伴う大気汚染物質の排出量の推計という研究分野、化学物質輸送モデルを中心とした環境モデル研究分野という従来密接に連携することのなかった研究分野を、データ同化手法を用いて統合し、次世代の大気環境汚染のシミュレーション手法を確立し、各分野の問題点を明らかにし精度の向上をもたらし、今後の大気環境シミュレーション研究を先導することを1つの目的としている。